雪崩

2015.07.03

監督:成瀬巳喜男  製作:P.C.L / 1937年(昭和12年)

雪崩タイトル-01
タイトルバック。クレジットでは構案に村山知義の名前が。

あらすじ
日下五郎(佐伯秀男)はある資産家の一人息子である。
彼には弥生(江戸川蘭子)という許嫁がいたが、突然蕗子(霧立のぼる)という別の女性と駆け落ちをし、反対する両親を強引に認めさせて結婚してしまった。ところが、従順すぎる蕗子との結婚生活に物足りなくなり、この結婚は間違いだったから離婚して弥生とやり直したいと言い出す。
勝手すぎる五郎の言い分をなじりながらも、未練を断ち切れず五郎と密会を重ねてしまう弥生。

五郎の父親は、無責任な五郎を厳しく非難する。
―お前が今の不道徳な行為を続けていくんなら、潔く別れるとしよう。しかし、これは俺の好意から忠告してやることだが…お前は日下家の金があっての日下五郎だよ。紙のように薄っぺらなお前のいう真実と別れるか。それともお前の地位をバックしている俺の力と手を切るか。

正論をつきつけられぐうの音も出ない五郎は、腹いせに妻と心中することを企て、旅行と嘘をつき蕗子と名古屋に向かう。駆け落ちをした名古屋の同じホテルへ。
そしてさらに、心中すると見せかけ蕗子だけ死ぬように工作すれば良いと恐ろしい計画を思いつく。
ところが、心中を持ちかけた五郎に、妻の蕗子は頷く。
―いつでも喜んで幸せに死ねると思います。
どこまでも夫を慕う妻の姿にたじろぐ五郎を前に、ついにずっと夫の愛情を疑っていた思いが溢れ泣きだす蕗子。
五郎は、自分の脆い”真実”が、妻に負けて崩れていくのを感じるのだった。

配役
日下五郎…佐伯秀男
江間弥生…江戸川蘭子
横田蕗子…霧立のぼる
五郎の父…汐見洋
五郎の母…英百合子
蕗子の父…丸山定夫
小柳弁護士…三島雅夫
弥生の弟…生方明

大佛次郞原作の小説を映画化した作品。大佛氏は、映画の冒頭でこう記しています。

雪崩と云ふ題はこの物語の中に出る日下氏の感慨から取りました
日下氏はこの現代と云ふ世界に住んでいる自分たちがしつかりと地面に根をおろしてゐるやうに見えてゐて
自分たちの知らぬ力で動かされて一度に斜面を滑り落ちて行くやうに見えるのを感じて驚きます
堅固な石の家を建てゝても動きやまない砂の上に皆が立つてゐます
日下氏のやうに 俺れは決して動いてゐないと信じてゐる人が やはりその雪崩の上に乗せられて
無意識の裡に運ばれて行くと云ふことです
大佛次郞

この作品では、主義主張だけは一人前の現代人五郎が、その実体のなさゆえにレールを踏み外していく様子が描かれています。

雪崩2-01
五郎を演じる佐伯秀男。上原謙どころじゃない大根としか思えないのですが…。これが当時の写実主義というものなのか…。

雪崩1-01
五郎の妻、蕗子(霧立のぼる)は霞がかかったような美しさ。ちなみにこの映画から五年後、実生活でも二人は夫婦となります。

雪崩3-01
五郎の許嫁だった弥生(江戸川蘭子)と、五郎の父親(汐見洋)。父親のセリフは名言のオンパレード。

雪崩_生方明
弥生の弟を演じる生方明。彼の顔は非常に現代的だと思いませんか?いまの芸能界にいても違和感がないと思います。

雪崩_銀座
五郎と父が食事をするレストランの窓から見える銀座の景色。どこのレストランだったのでしょうか。

成瀬巳喜男監督は、戦後の「めし」や「浮雲」が有名ですが、戦前も松竹で長い下積み時代を過ごしたあと、P.C.Lから引き抜かれ、意欲作を次々に発表しました。
私はこの「雪崩」と、「妻よ薔薇のやうに」の2作しかまだ観ていないのですが。
(松竹ファンからすると、どうしても俳優陣が小粒な感じがしてしまうのですねぇ^^;)

最先端の設備を備えたP.C.Lらしく、この作品でも珍妙な(?)技法の試みが見られます。
全編をとおして登場人物のモノローグがあるのですが、そのときだけ画面上からサッと黒紗がおりてくる。
モノローグが終わるとまたサッと上がる(笑)
技術的にはそれほど難しいことではない気がしますが、こういう表現が新しかった、その感覚が今からするとなんとも面白いと思います。

助監督は若き日の黒澤明氏。