按摩と女

2015.12.24

監督:清水宏  製作:松竹 / 1938年(昭和13年)

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タイトルバック

「有りがたうさん」や「簪」とともに、清水宏監督の代表作と云われています。

新緑の季節の山の温泉地を舞台に、盲目の按摩(徳大寺伸)と東京の女(高峰三枝子)との出会いと別れを描く、情感あふれる作品です。

主役の徳大寺伸は、飄々として女好きな盲目の按摩が、東京から来た謎の女に淡い恋心を抱くという役柄を、ユーモラスに、しかし繊細に演じています。はじめて観たときは、本当に盲目の方なのかと思ってしまいました。すっかり彼の演技に感心して、ほかの出演作を何本か見ましたが、キザで嫌味な二枚目から、屈折した若者など…さまざまなキャラクターを演じ分けていて、大ファンになりました。まだまだ観たことがない作品が多いので、今後も新たな彼を発見するのが楽しみなのです。

ヒロインの高峰三枝子は、桔梗の花のような美しさ。
デビューが1936年ですから、この作品ではまだ女優3年目です。しかも撮影、公開時には19歳!とてもそうは見えません。大人の女性に見せるためか声のトーンを低くしていて、それがまたとっても魅力的。ミステリアスな女を見事に演じています。
脇役の日守新一、佐分利信、爆弾小僧もみな良い味を出しています。
爆弾小僧とは、戦前に活躍した子役の芸名です。もう一人有名な子役に突貫小僧というのもいて、この時期おそらく一番活躍したのは突貫小僧の方なんですが、私はまだ二人の区別がよくつきません(笑)

配役
三沢美千穂(東京の女)…高峰三枝子
徳市…徳大寺伸
福市…日守新一
研一(小僧)…爆弾小僧
大村真太郎(東京の男)…佐分利信

鯨や 主人…坂本武
鯨や 番頭…二木連
女中 お菊…春日英子
女中 お秋…京谷智恵子
按摩 金造…油井宗信
按摩 亀吉…飯島善太郎
按摩 喜太郎…大杉恒雄
曳かれる男…赤城正太郎

ハイキングの学生…近衛敏明
〃…磯野秋雄
〃…広瀬徹
〃…水原弘志
ハイキングの女…槇芙佐子
〃…三浦光子
〃…中井戸雅子
〃…関かほる
〃…平野鮎子

按摩と女2
盲目の按摩、徳市(徳大寺伸)と福市(日守新一)が山の温泉場へ向かっている。
―山は青葉の頃にかぎるよ。いい景色じゃないか、見えるようだ。
二人は向こうからやってくる子供達が何人かを当て合いながら歩く。馬車が二人を追い越していった。徳市は東京のいい女が乗ってたと勘を働かせる。

按摩と女3
温泉場についた二人はそれぞれ馴染みの宿に向かった。徳市の最初のお客は馬車に乗っていた東京の女、美千穂(高峰三枝子)であった。一方、福市はハイキングの女学生たちの部屋に呼ばれる。徳市と福市に追い越されまいと頑張ったせいで脚が腫れたのだから按摩賃を負けろと責められてタジタジになる福市。徳市は次の部屋へ呼ばれ、そこには徳市たちが追い越せなかったハイキングの学生が。悔しい徳市は強烈な按摩をお見舞いする。

按摩と女4
福市は次に東京から来た男、大村(佐分利信)と甥の研一(爆弾小僧)の部屋に呼ばれる。研一は目の見えない福市の顔をこよりでくすぐり、いたずらした。翌日、ハイキングの学生は昨晩の按摩のせいで歩くこともままならぬ状態、宿へ引き返すことになり、女学生たちにひやかされる。同じころ、徳市たちが按摩部屋で雑談していると、鯨屋の女中お菊さんが、美千穂から指名が入ったと徳市を呼びにきた。

按摩と女5
他の按摩たちは温泉へ向かった。一方徳市は、鯨屋に行ったにも関わらず美千穂と会えずじまいである。外まで探しに出て美千穂とすれ違うも、彼女は按摩に声をかけることもなく、戯れに河原へ出かけてしまった。徳市は結局みんながいる風呂に合流するのだった。

按摩と女6
鯨屋では盗難事件が発生。学生たちの財布がすっかり盗まれてしまったのだ。徳市に肩を揉んでもらいながら、そのとき二階にいたのは東京の女のお客さんだけだったと思うんだが…と呟く主人。そこへ、美千穂が研一を連れて戻ってきた。

按摩と女7
大村は一泊だけしてもう東京へ帰ろうとしている。そこに研一が来て、東京のおばさんと約束があるからまだ帰らないと言い出し、美千穂のところへ行ってしまう。研一から事情を聞いた美千穂は、一緒に大村の部屋に行き、謝るのだった。

按摩と女8
按摩部屋。徳市に注文が入るが、徳市は福市に代わってもらうよう頼む。美千穂からの指名を待ってるんだなとひやかし出かける福市。あとを追いかけ橋の上を通った徳市は学生たちと喧嘩になり、相手をこてんぱんにやっつける。

按摩と女9
翌日、徳市は別の宿でもまた窃盗事件があったことを知り、美千穂がやったのではないかと怪しむ。その美千穂は、大村と川辺で語らっていた。いつ東京に帰るのかと聞かれ、決めていないと聞かれる美千穂。のんびりできていいですねぇと羨ましがる男に、美千穂は答えるだった。
―ちっとものんびりなんかしていませんわ。とても心配なんですの。
彼女のことが気にかかる東京の男は、もう一泊しようと甥っ子の研一に提案する。

按摩と女10
川で徳市とすれ違った研一は、美千穂が叔父とばかり話していると愚痴をこぼす。美千穂が気にかかる徳市。その夜、宿の近くの橋の上で大村と美千穂が会っているところへ徳市がやって来るが、徳市は気がつかないふりをして通り過ぎるのだった。男は、さらにもう一泊しようと言い出す。

按摩と女11
暇を持て余す研一に、徳市は川で泳ごうかと誘った。
―按摩さんでも泳げるのかい?
―泳げるさ。飛び込みだってできるよ。
二人は川へ行き、徳市が着物を脱いで入りかけたところへ、美千穂がやってくる。慌てて岸へ戻り着物を裏返しのまま羽織る徳市に、美千穂は駆け寄って着物を着せてやった。また大人同士のやりとりが始まってしまい、研一はふてくされ、町へひとり戻って行く。美千穂と大村の仲を誤解する徳市に、美千穂は山の中にいると東京の人が懐かしいのだと語るのだった。

按摩と女12
研一は、今度こそ本当に帰りたい、と叔父に強く訴える。少し考えて、よし、帰ろうか、と大村は帰る決心をするのだった。おばさんに挨拶してくる!と駆け出す研一。美千穂は徳市と川にいたが、岸で研一が別れの挨拶をして去っていくのを見て、思わず追いかける。温泉場の入口まで走って来たときには、馬車が去ったあとだった。美千穂はなんとも言えない哀愁に襲われる。

按摩と女13
その夜、徳市は福市から、警察が例の宿屋荒らしを捕まえるため町中の旅館を回っていると聞かされる。美千穂が犯人だと思い込んでいる徳市は慌てて鯨屋へ行き、美千穂を逃がすため裏口へ連れて行く。

按摩と女14
ところが、話をするうちに徳市の疑心は勘違いだということが分かる。美千穂は警察から逃げているのではなく、囲われている旦那から、この温泉場へ逃避行してきたのだった。
―馬車のラッパや、人の足音にも怯えてたのは、それだからなんです。あなたの勘が、あなたの見えない目が、あまりよく見え過ぎたんですよ。
徳市は真相を知り、うなだれる。

按摩と女15
雨の日…。馬車が出発の準備をしている。旦那が美千穂を迎えにきたのだ。馬車に乗り込む美千穂に、徳市は何も言えなかった。

按摩と女16
美千穂は徳市に淋しく微笑みかけ、去って行った。相棒の恋に気づいていた福市も、淋しい気持ちをかかえて宿へ戻っていく。徳市だけが馬車を追って走った。しかし馬車は山道に揺られ、どんどん小さくなっていくのだった。